第2章 アメリカ — 支配者か衰退者か


2.1 米国の強さの本質は軍事ではなく“同盟ネットワーク”

アメリカの強さを軍事力だけで説明するのは、 地図の輪郭だけで世界を理解するような誤りである。

確かにアメリカは圧倒的な軍備を持つ。 しかしその本質は、 “力を共有し、他国を自分の秩序に組み込む能力” にある。

NATO、日米同盟、米韓同盟、五眼、クアッド、 そして国際金融、ドルシステム。 アメリカは単独で強いのではなく、 「他国を自分の安全保障の一部にする」ことで強さを得た。

その結果、 アメリカの軍事力は “世界の安全の土台”と見なされるようになった。

その強さは、 ミサイルや空母の数よりも、 “世界の多数がアメリカの敗北を望まない” という構造にある。

これが中国やロシアとの決定的な違いであり、 米国覇権の最大の特徴である。


2.2 内部分裂と疲労する民主主義

しかし、覇権の中心に立つ国家は、 外からではなく内側から崩れていく。

アメリカの最大の問題は軍事でも経済でもなく、 “国をまとめる物語が弱くなったこと” である。

かつてアメリカは 自由、繁栄、チャンスという シンプルで強い物語を掲げていた。

それは人々を引きつけ、 アメリカを自信と使命に満ちた国家にした。

だが格差とアイデンティティ対立、 政治の部族化が進み、 物語は分断された。 共和党と民主党は国家ではなく 互いの敵を見始め、 政府機能は停滞し、 民主主義は自己不信に陥っている。

アメリカは外部からの挑戦よりも、 内部の崩壊が最大の脅威となった。


2.3 トランプの登場が示す「帝国後半の症状」

トランプとは誰か― 彼は現象であり、 アメリカが変わったことの証拠である。

エリートに対する不信、 グローバリズムの後退、 白人層の喪失感、 民主主義の形骸化。

その全てが、 “帝国の末期に現れる症状” として現れた。 トランプはそれらの不満を言葉にし、 物語の断片を集め、 国家の精神的断層の上に立った。

彼が再び権力を握る可能性は、 アメリカが自信を失い、 自己否定と自己破壊の衝動と 闘っていることを意味している。

トランプ現象は、 アメリカの弱さではなく、 “アメリカが変質したという事実” の象徴である。


2.4 アメリカは覇権を維持するのか、再定義するのか

アメリカの未来は、 支配か衰退かという二択では説明できない。

崩壊する可能性はあるが、 消滅するわけではない。 弱くなる可能性はあるが、 世界はなおアメリカを必要とする。

そこで浮かび上がるのは、 “覇権の再定義” という未来だ。

もはやアメリカは 単独の帝国として世界を管理できない。 だが、 ネットワークの中心として秩序を設計し、 価値や技術や安全保障の基準を決める力は まだ失われていない。

アメリカの問いはこう変わるだろう。

「支配するのではなく、 世界の秩序をデザインする国家になれるか?」

覇権とは単なる優位性ではなく、 世界の方向性を決める能力である。 アメリカがそれを維持するか失うかは、 国内の再統合と 新しい物語を再構築できるかにかかっている。