5.1 EUの統合は力か脆さか
ヨーロッパ統合は、 20世紀最大の政治実験と言われてきた。 国家を越えた市場、通貨、法、外交は、 かつて戦場だった大陸を “平和の共同体”へ変えるはずだった。
その壮大な試みはたしかに成果を生んだ。 ドイツとフランスが争わず、 小国も大国と同じテーブルで発言でき、 戦争ではなく交渉が秩序の基本となった。
だが、統合は同時に 脆さの構造も生み出してしまった。 決定には全員一致が求められ、 緊急時には政策が停滞する。 経済規模は巨大なのに、 意志決定は小国の速度に引きずられる。
ヨーロッパの強さと弱さは、 同じ仕組みから生まれている。 統合は力の源泉である一方、 危機の時には脆さへと転じる。
5.2 ドイツ・フランスの弱さの理由
かつてヨーロッパの中心は ドイツとフランスだった。 しかし今、それぞれが自信を失っている。
ドイツは経済モデルが揺らぎ、 ロシアと中国依存が裏目に出た。 低コスト輸入、安価なエネルギー、 輸出主導という黄金の構造は崩れ、 軍事的指導力も持たない。
フランスは理念と外交で主導を試みるが、 経済と社会は不満と停滞に覆われ、 欧州を率いる実力が足りない。
ヨーロッパの中心が弱体化したとき、 周縁が主導権を奪う。 それが東欧の台頭であり、 NATOの新しい顔が バルトとポーランドになりつつある理由だ。
5.3 NATOの復活と東欧の台頭
ウクライナ戦争は、 NATOに再び息を吹き込んだ。
ロシアの脅威が現実となった瞬間、 ヨーロッパは安全保障の現実に戻り、 アメリカの存在意義が再確認された。
しかし、過去のNATOと違うのは 主導権が東に移っていることだ。
バルトは最前線国家として声を強め、 ポーランドは軍事力を増強し、 東欧は“実感としての脅威”を語ることで 外交の影響力を得始めた。
ヨーロッパの安全保障が 「大陸中央ではなく、国境で決まる時代」へ 静かに変わっている。
5.4 大陸国家が世界の主役に戻れるか
ヨーロッパの未来は、 かつての帝国の栄光に戻ることではない。 むしろ、 新しい秩序の調停者になれるかどうかにある。
地政学的にヨーロッパは アメリカと中国の間に位置し、 軍事力ではアメリカに依存しつつ、 経済では中国との接続を失えない。
だからこそ、 ヨーロッパが世界の中心に戻るには 価値秩序と外交の仲裁者として “第三の力” を発揮する必要がある。
平和と法と市場を重視する ヨーロッパ的経験は、 新しい秩序が揺らぐ時代にこそ 意味を持ちうる。
だがそのためには、 内部分裂と自己懐疑を乗り越え、 自分たちが世界を “語る力” を 持っていると再信することが必要になる。