第6章 民主主義は国家を弱体化するのか


6.1 民主主義は“国家の力”と“国民の幸福”を交換する制度である

民主主義は国民に自由と権利を与えるが、 国家の将来の生存に不可欠な長期的な負担や痛みを、社会全体で引き受けることを難しくする。

人々は国家より自分の生活を守ることを優先し、 政治は人気取りの競争になり、 長期戦略より短期的利益が重視される。

つまり民主主義とは、

国民の幸福を最大化する代わりに 国家の生存能力を引き換えにする仕組み

なのである。

国民にとっては魅力的だが、 国家にとっては危険な制度でもある。


6.2 “国民が国家を縛る”という逆転が生じる

専制国家では、 国家が国民を支配し、 国家が死ねば国民も死ぬ。

しかし民主主義では逆転が起きる。 国民が国家を縛り、 国家が国民の支持なしに動けなくなる。

この構造は 平時には幸福を生むが、危機の時には 国家の致死的な遅さ として現れる。

意思決定の遅延、 防衛投資の忌避、 犠牲への拒否。

民主主義国家が 外圧に弱いのは理論の欠陥ではなく、 制度が生存戦略として 自己矛盾を抱えているからだ。


6.3 民主主義が強かった時代は“例外状態”である

20世紀後半、 民主主義国家は繁栄した。 しかしそれは 民主主義が強かったからではなく、

国際環境が民主主義国家にとって 異常に有利だったから である。

戦後の安全保障は アメリカが核で守り、 経済はグローバル市場が開き、 軍事力を持たなくても 生存できる時代が続いた。

民主主義が強かったのではなく、 他人が守ってくれた時代だっただけ なのだ。

だから今、 国際環境が変わると 民主主義国家は急速に脆さを露呈している。


6.4 民主主義は戦時には“致命的になりうる”

戦争は犠牲と意思の競争である。 しかし民主主義では 国民が犠牲を拒否し、 政治はそれを説得できない。

だから民主主義国家は、 本格戦争の前に 外交や譲歩を優先しがちになる。

その心理的基盤には「戦わずに済むなら戦わない方が良い」 という信念がある。

これは人間としては真っ当だが、 国家の生存戦略としては弱さである。


6.5 民主主義国家の生存には“成熟した国民”が必要になる

民主主義が生存できる条件はただ一つ、 国民が現実から逃げないこと である。

自由を享受しながら 犠牲を受け入れ、 議論をしながら 意思決定を恐れず、 快適さの中にいても 国家の危機感を失わない。

言い換えれば、

民主主義は国民の人格が国家の運命を決める制度である。

国民が幼ければ国家は滅ぶ。 国民が成熟すれば国家は生き残る。

日本も欧州も今試されているのは 制度ではなく 国民の成熟度 である。

民主主義は 国家を弱くするが、 同時に国民を強くできる。 そこに生存の可能性がある。